パリス・ストーリー6

パリには教会も数多く存在し、観光客と礼拝者で賑わっていました。

僕はキリスト教文化の中で暮らしたことが無いので、教義や作法について何も知りません。しかし、静粛な聖堂の中に澄んだ聖歌が響き渡り、ステンドグラスから差し込む青く透明な光に包まれると、自然と心が震え、思わず手を合わせたい心地になります。


平安時代の歌人・西行(さいぎょう)は、出家して仏道の修行に励んでいましたが、伊勢神宮を詣でた際に神気を感じ、えも言われぬありがたさに感極まって涙を流しました。その感動を次の歌に詠んでいます。


なにごとのおはしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる

(どなた様がいらっしゃるかは分からないが、ただただありがたく、思わず涙が溢れてしまった)

西行と同じような感動を胸に聖堂を出ると、白人のティーンエイジャーの集団がなぜかガイジンの僕に署名を求めてきました。嫌な予感がしてどうにか身振り手振りで断って逃げると、今度は陽気な黒人が何か語りかけながら、僕の手首にミサンガを結びつけようと急接近してきました。噂に聞いた押し売りです。西行とか神とか言ってる場合じゃない。


なにごとの起こりたるかは知らねども ニセフレンチで難を逃るる

(なにが起こっているかよく分からないが、カタコトのフランス語でメルシーメルシー言って回避した)